人口減少時代の公共施設マネジメント ―公認会計士が答える 実務Q&A(全2/3回)―
執筆者
渡邊 靖雄(わたなべ・やすお)/公認会計士
公会計と公共施設マネジメントを接続する公認会計士。
第2回 維持管理と住民合意形成 ―データに基づく見極めと対話
施設情報の管理から予防保全、そして住民との合意形成へ。第2回は、限られた資源を「残すべき施設」に集中させるための見極めと、それを住民の納得につなげる対話のあり方を取り上げます。
■ 施設情報の管理とライフサイクルコスト
Q 劣化状況や修繕履歴のデータ整備不足を、どう解消すればよいですか。
A 既存の不足を一度に遡及して埋めるのは現実的でないため、都度補うのが基本です。すべての施設を一律に調べるのではなく、更新時期が近い施設や重要度の高い施設から優先して整備します。今後の修繕・点検は、記録の様式・ルールを標準化したうえでシステムに履歴(ログ)を正確に蓄積し、発生の都度更新する運用にしておけば、属人的な記録に頼らず、将来の更新判断に活用できる情報資産が積み上がります。ライフサイクルコスト分析でも、遠い将来の精緻な予測より、足元の施設情報をいかに正確かつ継続的に更新し続けるかが重要です。
Q 施設ごとに実態が異なるなか、コストを比較できるようにするにはどうすればよいですか。
A まず各施設の維持管理費を共通の費目(人件費、委託費、光熱水費、修繕費、保守点検費など)に区分し直し、計上基準を統一します。総額では規模の違う施設を比べられないため、延床面積当たり(円/㎡)や利用者一人当たりといった原単位に揃えて比較します。固定費と変動費に分ける固変分解も補助的に役立ちますが、公共施設は固定費割合が大きいため一手段と位置づけます。重要なのは、コストだけでなくその施設が生み出す便益・必要性をあわせて評価することです。便益の貨幣換算は難しいため、利用者数や稼働率、住民一人当たりコストなど測定可能な指標で、コストに見合う利用実態があるかを判断します。
Q 公共施設のライフサイクルコストは、どう作成すればよいですか。
A ハード面(建設・更新の初期投資と、修繕・保全・光熱水費などの維持管理費)とソフト面(施設を使って行政サービスを運営する管理運営費)に分けて把握すると、削減・見直しの手段がそれぞれ異なるため意思決定に活用しやすくなります。これらを20〜30年程度でシミュレーションすれば、施設の生涯費用の全体像がつかめます。公営企業の経営戦略と同様のイメージで策定するとよいでしょう。なお長期修繕計画を作る際は、その前に「その施設を機能として使い続けたいか」を判断することが入り口です。残すと判断した施設について、特定年度に費用が集中しないよう修繕時期を分散・平準化しておくことが、計画を実行可能なものにします。
■ 予防保全・長寿命化
Q 統廃合の方針が決まらないまま老朽化が進みます。予防保全が事後保全に留まる悪循環をどう断てばよいですか。
A 方針が定まらないまま全施設で予防保全を試みると、どれも中途半端になり突発修繕に追われ、判断を先送りするほど負担が累積します。打開策は発想の転換で、「廃止を原則としたうえで、残すものに積極的な理由を求める」運用に切り替え、残すべき理由を示せない施設は消去法的に廃止方向で整理します。残す施設を絞り込んだうえで、限られた人員と予算を残す施設の予防保全に集中投下し、廃止が見込まれる施設は予防保全の対象とせず安全確保に必要な補修に限定して、耐用年数を過ぎ安全確保が費用的に見合わなくなった時点で使用を中止します。長寿命化計画も、残すと判断した施設に絞って計画すれば、計画と実態の乖離を防げます。なお法定耐用年数は減価償却上の年数であり、適切な維持管理・長寿命化改修を行えば相当上回って使用できるとされています。
■ 住民合意形成
Q 施設の廃止を含む見直しに対する住民の反発に、どう対応すべきですか。
A 反発を抑え込むのではなく、なぜ見直しが必要かという財政状況や将来推計といった前提を、まず正確に共有することが重要です。多くの反発は、その必要性が腹落ちしないまま決定が進むことへの不信から生じます。そのうえで決定的に効くのが役割分担で、財政や将来推計といった受け入れにくい情報は利害から中立な外部の専門家が説明を担い、住民説明の矢面には専門家が立ち、行政は意向把握や調整に徹します。専門家は論点に応じて適任を組み合わせ、財政・将来推計は公認会計士など会計の専門職、施設の老朽度・更新費といった技術面は建築士や技術士が中立的立場から担うのが現実的です。
Q 説明会とワークショップは、どちらを採用すべきですか。
A 二者択一ではなく、段階で使い分けます。まず財政状況や施設の現状といった前提を、一方向で確実に伝えられる説明会で共有し、その後、何を残し何を見直すかの合意形成は双方向のワークショップで進めます。先に説明会で「財政の制約」という土俵を共有しておけば、議論が個々の要望の主張だけに終始するのを防げます。モデルケースへの限定が生む不公平感には、なぜその地域を選んだのかを人口動態・老朽化具合・財政影響などの客観指標で示し、他地域への展開の道筋もあわせて示すことで対応できます。
Q 「総論賛成・各論反対」を、どう打開すればよいですか。
A 総量縮減には賛成しても自分の地域の施設の廃止には反対する、という反応は必ず生じます。打開の鍵は、どの施設を縮減対象とするかの基準を、各論に入る前の総論段階で住民と合意しておくことです。利用率・劣化度・コストといった客観指標で基準を定めておけば、各論ではその基準を当てはめるだけとなり、「特定地域が恣意的に狙われた」という反対の論拠を抑えられます。基準で決まる以上どの地域も例外にできない、という形にすることで乗り越えやすくなります。
Q 施設廃止に伴い代替施設を求められたら、どう対応すべきですか。
A まず、住民が必要としているのが「建物そのもの」なのか「そこで受けられる機能・サービス」なのかを区別します。多くの場合、本質的な要望は機能の維持にあります。同等の施設を新たに建てれば維持更新費が将来にわたり発生し総量縮減と矛盾するため、近隣施設への機能の集約や既存施設の共用、移動手段の確保など、より持続可能な形で機能を代替できないかを検討します。地域と結びつきの強い集会所のような施設なら、地元自治会への移譲も選択肢です。そのうえで、限られた財源ではすべての要望に応えられないこと、まずは生存権の確保や社会的弱者の救済が優先されるべきことを、中立的な専門家から説明し理解を得ていくことが重要です。