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2019.12.21

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点③ 〜ジブンゴトにするための仕掛け〜

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点②
〜多様な意見創出の仕掛け〜

首都大学東京助教 讃岐 亮

 

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点③
〜ジブンゴトにするための仕掛け〜

首都大学東京助教 讃岐 亮

公共施設マネジメントに纏わる市民ワークショップをテーマとした連載の第3回となる本稿ではもう一つの仕掛けについて整理する。今回は、関わる市民にとって、あるいは職員にとって、ジブンゴトにしてもらうために必要な仕掛け、を切り口としよう。

前回も少し触れたことを繰り返そう。市民は自治体経営のプロではない。財政に精通している訳でもない。市政の情報を全て知っている訳でもない。時に自分勝手な意見も言う。自身の生活領域の外側については、少しばかり無関心となりがちである。しかしながらワークショップの参加者は、地域のことを真剣に考えようとする責任感を持っているものである。

行政の仕事を全て自治体が担える時代ではない、というのは、人口減少時代において特に声高に謳われる文句である。ではその対応のためにどうしたら良いか。そこで生み出されたのが公民連携という言葉であり、市民参加や市民協働というキーワードであろう。市民参加・協働については、ともすると「協働」という言葉本来が意味するところにまで至ってない現実があり、それはそこかしこで指摘されている。一方で、公民連携、つまり自治体と民間事業者との連携については、多くの書籍が発行されていたり、Web上で情報を得ることができるほど、様々な事例が増えつつある。

さて、公民連携にしても市民協働にしても、実際にそこでは何が必要となるだろうか。無論その回答には様々あろうが、一つには、民間事業者にも市民にも、関係主体には「自分事(ジブンゴト)」だという認識を持ってもらうことが挙げられる。なお、このジブンゴトという言葉を、私は本コラムの執筆者の一人でもある日本PFI・PPP協会の寺沢氏(※1)から教わった。

ワークショップはその性質から、自身の、ないし自身が所属するディスカッショングループ
の意見を自分事として認知しやすい手法と言える。現状を認識し、自分の言葉として解釈し、
自身の言葉で意見を言い、複数人でアイディアとして成立させる一連の流れは、最終的にグル
ープで作るアイディアシートが自分事の成果になるわけである。

ただ、多くのワークショップで行われるグループごとの「発表」の時間になると、どうしても尻込みしてしまいがちな人も多く、その提案に対する「ジブンゴト」という認識が薄れてしまう傾向にある(このことは、市民に限らず、行政職員にも同じことが言えるはずであり、耳の痛い話であろう)。無論、中には積極的に発表してくれる頼もしい参加者がいるのだが、多くはそうではない。それを少しでも回避するための仕掛けとして、2019年1月に最終回を迎えた武蔵野市の『公共施設のあり方ワークショップ』では、提案発表をポスターセッション形式で行うという手法を採用した。

武蔵野市のワークショップの詳細については、市のHPに掲載された報告書に詳しい(※2)ので、ここでは概略のみ紹介することとしよう。市域を3地区に分けて、計4回の構成で、初回と最終回は3地区全員(およそ90名)が一堂に会し、第2回と第3回は地区ごと(それぞれ30名程度)に行われた。民間のコンサルタントは付かず、市の資産活用課及び他課の若手職員と、首都大学東京の大学院生・学部生計8名と私との協働チームで企画運営したものである。 第1回は市内の公共施設のおさらいと、自分が利用している場所・施設(公民問わず)を情報共有、第2回には初回で共有した全員の行動の地域的傾向の分析、利用している公共施設や利用されていない公共施設の分析を行った。
第3回では各グループで注目したい場所・施設に焦点を絞り、機能や課題について検討、それぞれのグループディスカッションで出たアイディアをポスター形式で下書きとしてまとめた。その上で、最終回までに事務局がポスターを清書、印刷し、発表会当日に細かな調整をグループメンバーで再度行った。

そして第4回、つまり最終回の発表会では、各グループのメンバーを、自分のグループのポスターをプレゼンテーションする「店番役」と、他のグループのポスターを見て回る「お客さん役」とに分けて、前半後半で交代制とするポスターセッションとした。一人の発表者が参加者の全視線を集めて口頭発表するのではなく(それでは緊張してしまう、尻込みしてしまう)、2対2、3対3、あるいは1対1の少数同士で語り合う、意見を交換する環境にするべくこの方式としたが、そのことで、活発な議論がそこかしこでなされ、セッションに用意していた80分は「あっという間に過ぎた」(参加者談)。このように、自分たちの意見を自信を持って発信・議論してもらう、という工夫は、提案を「ジブンゴト」にする、ひいてはそのことを認識してもらうための一つの技法と言えよう。この手法が汎用的か、2019年度に計画中の同様のワークショップで検証してみようと考えている。

なお、この武蔵野市のワークショップでは、最終回で再度一堂に会したわけで、「それまでに見ていない、聞いていない、知らない各地区、各グループの発表に触れる新鮮さもあった」という意見も聞かれた。その面では、前回のコラムで述べた「意見の多様性の認識」にも一役買っていたと想像できる。
自分の意見に責任を持たせる工夫、言いっぱなしにさせないこと、ひいてはそれがジブンゴトという意識につながる。ワークショップを企画する自治体関係者、あるいは参画する市民に、このような考え方を頭の片隅にでも置いておいてもらえるとありがたいものである。

参考
※1:ジャパンシステムコラム「自治体における民間連携に関するコラム(18)自分ごとと
して考える」

※2:武蔵野市「公共施設のあり方ワークショップ報告書」