FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点② 〜多様な意見創出の仕掛け〜
FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点②
〜多様な意見創出の仕掛け〜
首都大学東京助教 讃岐 亮
前回に引き続き、公共施設マネジメントに纏わる市民ワークショップをテーマとして、今回はそこで必要な「仕掛け」の一つについて整理したい。キーワードは「多様な意見創出」である。
公共施設マネジメントとは、あるいはこれに限らず行政全般は、経営活動である。従って、最終的な事業進行の決定はその組織のトップ、つまり首長が行うべきである。これをあえて明記するのは、それは持ちかけられるワークショップ案件の狙いに「市民との合意形成」を挙げるケースが比較的多いことが理由にある。はたして、一般に想定される1回あたり2〜3時間、全4回、4ヶ月間の議論で、合意形成ができるだろうか。
確かに、都市計画分野で育ててきたワークショップとは、ある成果を出すことを目標として開発された意見交換手法と言える。そして、その成果という言葉に、「合意形成」が当てはめられがちなことも理解できる。しかし、本当にそれを市民に求めて良いだろうか。皆が同じレベルで市のあらゆる情報を持つわけではないし、それぞれが抱える生活の課題は一つ一つ異なる。ともすると、市民は自己中心的な発想に陥りがちであるし、市域全体を見渡して議論するような訓練を受けてきた人は多くない。こうした一般的状況を踏まえて、私は、合意形成をワークショップの目標にしなくてよいと考える。
無論、あるプロジェクトを発動させ実践するには、どこかで意思決定しなければならず、市民との合意形成は必要になる過程の一つである。しかし、公共施設再編のワークショップでそれを狙って成功した事例を私はほとんど見たことがない。あるとしてもごく一部の事例のみである。合意というからにはその提案が自治体経営上合理的である必要があるが、初回から最終回までの期間の中で、初回ないし途中回で発せられた提案についてきちんとチェックするだけの時間がないことに鑑みれば、そこで合意形成を行うのは不合理と言える。むしろ、ワークショップの中で出た柔軟な発想、創造的アイディアを、自治体経営を担う職員というプロ集団がきちんと吟味する時間を設け、首長が最終的に経営判断を下すという意思決定プロセスの方が自然かつ合理的であろう。ワークショップとは、個々人から発せられる意見や視点、アイディアの収集の場と捉えるべきものである。
さらに言えば、この個々の意見が多様であることを、参加者である市民の皆さんに「認知させる」ことが、ワークショップの決定的に重要な意義であると考える。普段、不特定多数の人間と接するわけではない市民にとって、こうした場は、自分とは異なる意見、あるいは少し異なる目線といった、多様な意見・視点の存在を認知する格好の機会となる。
そのための一つの技法として、グループ編成の工夫がある。2017年の長野市で開催された『公共施設について考える市民ワークショップ』のうち1地区の事例を紹介しよう(※1)。そこではグループの編成を「人生の大先輩グループ」、「人生の先輩グループ」、「お父さんお母さん世代グループ」、「これからのリーダー・若手グループ」、「学生グループ」に分けてワークを進めた。すなわち、同年代のメンバーが集まるようにグループを作ったのである。
そのワークショップでは、地域の拠点となっている駅の近隣に立地する市立の図書館、保健センター、学校等が話題の中心になり、それらについて課題認識を共有し、最終的に4つのグループが「図書館を中心とする施設再編の必要性」を提案としてまとめた。それら提案を簡単にまとめると、年代の上から順に5つ目までのグループは、「図書館は地域で使われる必要な施設であり、地域の中心的位置に立地している。この機能を中心にまちづくり・まち再編を考えていくべきだ」というスタンスの提案で共通点を見出せた。しかしここで興味深いことに、それら大人グループの発表の後、最も若い年代の学生グループ(小中学生含む)から「本のある施設に人を集めるのではなく、子供のいる学校に本を集める」という提案が発表されたのである。
ここで重要なのは2点ある。一つは提案そのものの柔軟性・新規性。もう一つはそういった柔軟な発想が、きちんと「発表の場で共有された」こと。 前者について補足すると、「施設のあるところに人を集める」という、ある種の固定観念を打破するような「逆転の発想の案」と評価できる。また、若者ならではの客観的な視点で図書館のサービスを見つめ直し、地域の拠点たる学校の優先度が高いという結論に達した点に、まちづくり視点を垣間見ることができる。
後者については、以下のように評価できる。一般的に、グループを多世代、ないし様々な立場の方を混成してチーム編成をするが、それは時として、新しい発想、柔軟な発想による意見を抑止しがちである。たとえ他人の意見は尊重せよ、と伝えたところで、チームとして成果発表する際に、どうしても少数意見は端に追いやられ、会場全体で共有する機会に恵まれない。長野市のこの事例は、グループ編成時に、提案の全体共有の場で柔軟なアイディアが見落とされないような措置をとることの重要性を教えてくれる事例である。
なお、こうしたグループ編成のもう一つのメリットとして、同世代同士、あるいは似た立場同士で意見が出しやすい、というものもある。これは実際に他のワークショップで参加者からもらった感想の言葉でもあり、ワークでの議論そのものの活性化に効果的な手法と言えるだろう。ここでは年代というわかりやすい属性でグループ編成した事例を紹介したが、もっと別の属性で班分けができると面白いかもしれない。そのあたりについては、是非、皆さんに知恵を絞ってもらいたい。