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2020.7.05

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点⑥ 〜立地適正化計画と公共施設再編〜

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点⑥
〜立地適正化計画と公共施設再編〜

首都大学東京助教 讃岐 亮

 

前回(第5回)のコラムでは、多摩市の2015年度の『公共施設の見直しについてのワークショップ』の事例を通して、『公共施設のあり方を考える=将来のまちのあり方を考える』という視点を解説した。今回は、それに関連して、将来の都市像を描く最新の都市計画施策としての立地適正化計画に焦点を当てて、公共施設マネジメントとの関係について整理したい。ワークショップそのものの話ではないが、準備の段階で役に立てて欲しい。

まずは諸計画の位置づけや策定のタイミングについて整理しよう。長崎市は、2016年2月に公共施設等総合管理計画を、2018年4月に立地適正化計画を策定、公表した(※1)。そして現在、17の地区別に、公共施設再編実践のより具体的な計画を策定中である。個別施設計画の策定に追われ本当に必要な「実践」にまで手が回らない自治体が多い中、実践のための地区別計画策定に注力し、覚悟を持って実践に臨もうとしている点が長崎市の特徴と言える。

と言いつつも、実践に臨もうという気概自体は、比較的多くの自治体で担当者が持っていることだろう。ただ、事実として何をいつやる、という方針を具体的に書けない事情を抱える自治体がほとんどで、しっかりと歩を進めているのはほんの一握り。長崎市も、その点では多くの自治体と同じかもしれないが、具体的に進めるためのプランを作っているという点で、他とは少し異なると考えている。

さて、本題に戻って、長崎市は立地適正化計画の中で施設類型別、地域別に施設の必要性と立地状況を客観的に捉え、施設誘導の必要性の有無について明記している。都市計画領域の計画で公共施設まで含めた地域施設のあり方とそれに向けた方針を定めていること自体は、それほど珍しいことではないが、明示してあることが、この次に説明することとリンクする大切な要素となっているのは、長崎市の特徴と言える。

長崎市の公共施設マネジメントと都市計画がどのように連携しているのか。その答えは、個別の実践計画とも言うべきより地区別計画の策定を目指して、立地適正化計画との整合の部分に長崎市理財部資産経営室が力を注いでいる、ということである。つまり、都市のビジョンを描いた(実態としてどこまで描けているか、という点に、本稿では触れないが)立地適正化計画が先行し、それに向けて公共施設の再編を検討している、両者の整合性を重視している、ということである。

長崎市では、この地域別計画の策定にむけて、計17地区(島嶼部を別枠としており、実質的には20程度となる)に分けて市民対話を2017年度から開催しており(※2)、この市民対話を企画進行する長崎市資産経営室のスタッフは9名で、自前でワークショップ企画を行っている、ということは前回も述べた。実は当初、もう少し早い段階から市民対話の相談の話が持ち上がっており、いつになるかと首を長くした時期もあったが、後で聞いてみると、その期間中、立地適正化計画の策定を待って、施策間の整合性をきちんと担保しよう、それをもって市民対話に臨まないといけない、という考えがあったようである。まとめると、総合管理計画の策定から多少の時間を要したが、その間、地域別計画の策定の準備のために施設所管課との調整、立地適正化計画との整合の調整を行い、市のFM担当部署として覚悟を持って臨める体制を整えてから、実践のための地域別計画策定に着手した、市民対話はそのためのハブになっている、ということになる。

多くの自治体は、施設の再編をその担当部署のみで検討していることが多いが、長崎市は都市計画担当の部署との調整を怠らず、また施設所管課との調整も詰めて、地区別計画策定の環境と市民対話の機会への準備を行ってきた。また、ワークショップを「市民との合意形成が図れる便利なツール」と安易に捉える向きもある中で、長崎市は市民対話の場を「必ずしも合意形成を目標にしないが、市としての覚悟をきちんと示し、庁内調整もきちんとした上で、情報・認識をきちんと共有させていく場にする」という想いで、直営でワークショップを企画運営している。

いずれの事柄にも共通する背景に、資産経営室という部署で、このような地区別計画策定のための環境醸成(=庁内調整)と市民対話の企画運営を「自前で」行ってきた、という点が挙げられる。計画の公表にしても、そこへの通過点である市民対話にしても、市としての方針に部署ごとに、あるいは計画ごとに「ぶれ・ずれ」があっては、つまずきのきっかけとなる。そこに様々な事情があることも一定程度理解できるものの、計画策定自体を業者に任せるとか、市民ワークショップの企画・運営全てを専門業者に委託するような実態はそこかしこに見られ、担当部署であるにも拘らず内容を十分に把握していないとか、ワークショップでは説明のみ行うといった「他人事」姿勢につながりがちで、これもつまずく原因の一つである。こうした認識をしっかりと有し、「ジブンゴト」として、直営で着実に進めていこうとする長崎市の姿勢は、多くの自治体が見習うべきところであろう。

参考

※1:長崎市「長崎市立地適正化計画」

http://www.city.nagasaki.lg.jp/sumai/650000/659001/p029291.html

※2:長崎市「公共施設の将来のあり方を考える市民対話」