FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点① 〜再編プロセスの中での市民対話のタイミング〜
FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点①
〜再編プロセスの中での市民対話のタイミング〜
首都大学東京助教 讃岐 亮
「参加型」、「住民主体」、「ボトムアップ」、「市民協働」、「市民対話」、「多世代共創」・・・。これらキーワードに象徴されるように、自治体のまちづくり、まち経営に対して市民が参画する機会は近年、特に増えてきている。これらは都市計画分野で様々な取り組みがなされ、発達した手法と考えられているが、そんな中、公共施設再編を取り巻く環境においても、市民参加や市民協働を謳うワークショップや対話の場が企画され、公共の施設やサービスのあり方を市民とともに検討する環境が作られるようになった。自治体の組織名称で言えば、たとえば市民協働や都市計画を担当する部署だけでなく、企画や管財部門さえ、市民との対話の機会に触れざるを得ない時代になっている。
全国のほぼ100%の自治体が、公共施設等総合管理計画の策定を終え、現在は個別施設計画の策定、あるいは総合管理計画の改訂に向けた作業に追われているが、特に個別施設計画においては、パブリックコメントとは異なる形で市民と対話するプロセスを位置づける例が多い。こうした全国的な動きもあり、これからますます、公共施設のあり方について市民と協働する場が作られるであろう。ただし、「やる」と言うのは容易いが、実際の市民対話の現場で、あるいは企画段階で頭を悩ませている自治体が非常に多いこともまた、事実である。ともすると「形式ばかりのワークショップ」(※1)と揶揄されてしまうこうした市民参加・協働の機会を、はたしてどうやって企画運営していくべきだろうか。
結論から申し上げると、無論、そこに絶対的な正解はない。ただし、いくつかの普遍的・汎用的な技術やノウハウは、もしかしたら存在するかもしれない。実際、ワークショップのファシリテーターという職能は世の中に存在し、それをプロフェッショナルとする人々がごく一部ではあるが活躍している現状もある。
本稿では、筆者がこれまでに関わってきた公共施設マネジメントに関連するテーマで開催された自治体の市民ワークショップで得た経験を踏まえながら、市民対話に臨む段階で必要ないくつかの視座を、複数回にわたって整理することとしたい。ここで共有する情報もまた、すべての自治体に一様に適合するわけではないだろうし、あるいは真逆の手法が正解になる可能性もある。はたまた、ワークショップのような市民参加の機会を企画しない方が「ファシリティマネジメント」としての正解になることもあるだろう。そうしたことは理解していただいた上で、まさに「自分事」として考えるきっかけになれば幸いである。
なお本稿では簡単のため「市民」という言葉を使う(単に「住民」ではなく、参加・協働の主体を含意させるべく「市民」とする)が、区町村についても同様に受け取って欲しい。
初回の本稿は、まず再編のプロセスの中で、市民対話・ワークショップがどのタイミングで位置づけられるのか、整理してみたい。
公共施設再編と一口に言っても様々な段階があるが、その中で行われる市民対話の位置づけを「扱われるテーマ」に基づいて類別すると、主に2つに大別できる。一つは、たとえば公共施設等総合管理計画を公開してその市民普及を狙うような比較的大きなテーマ、つまり総論をテーマにするケースで、もう一つは、目の前にぶら下がっている喫緊の課題の解決(たとえばA公民館について、建物の劣化状況から数年以内に建替え、統廃合等を検討しなければいけない、など)をテーマにする、つまり各論を扱うケースである。本連載で紹介したい複数の事例のうち、多摩市(2015年度)、武蔵野市(2018年度)の事例は総論型、長崎市(2017〜18年度)及び長野市(2017年度)、多摩市(2018年度)の事例は各論型のケースである。
実際問題として、目の前に課題がない自治体はほとんどないはずであるから、総論型の市民対話は必要ないと言う向きもあろう。しかしながら、公共施設マネジメントの発想をきちんと市民に説明するプロセスは重要であり、その段階で市民と一緒に考える場を作ることは、意味がないとは言い切れない。総論は比較的理解されやすく、個別の議論に移るための論点の整理には大変に有意義で、かつ個別施設にとらわれない自由で柔軟な発想に基づくアイディアが出てくるというメリットがある。
後者の各論型の対話は、多くの自治体が個別施設計画で想定している市民対話と同義で、議論しなければいけない施設・サービスが存在し、それについてのあり方の議論、そしてアイディア出しを目標とするものである。こちらは課題が明確であって、各論反対の雰囲気が蔓延しやすいため、敬遠されがちである。ただし、公共施設再編を推進しなければいけないことは事実であって、これは事実にきちんと向き合うか、向き合い方の一つとして市民対話を選択するか、という覚悟が問われる問題である。
どちらが良い悪いというものではなく、検討しているその市民対話がどう位置づけられるのか、今一度確認することが大切、ということである。無理に各論から市民対話しようとしていないか、市区町村としてのビジョンが明確にできているか、といった観点から、市民意見を求めるに相応しい段階を再検討して、ワークショップ等の市民対話プロセスを有効に機能させることが肝要である。
参考