美ら海ネクサス
年少人口の減少、地域の担い手不足、老朽化するインフラ、加速するデジタル化――。
変化の時代の中で、地方都市はいま、大きな転換点に立たされています。
舞台は、沖縄にある架空のまち、人口3万6千人の「美海(みうみ)市」。
東京の広告代理店から転職してきた主人公・知念(ちねん) 結維(ゆい)は、若き市長・与那覇(よなは) 早紀(さき)との出会いをきっかけに、市役所の奥深くで進む“未来ビジョン”プロジェクトへ巻き込まれていきます。
カフェバー「セレンディピティ」のマスター、地元起業家・榊原奏人、そして市役所の職員たち。
多様な人々との出会いを通じて、結維は、公民連携、スタートアップ誘致、関係人口政策など、美海市の未来を左右する挑戦に向き合っていきます。
失敗を恐れず、アイディアを”社会実装”していく。
現実の自治体が直面する課題や可能性を、小説形式で描きます。

<第1話> 結維、着任。
「知念(ちねん) 結維(ゆい)。」
窓から海が見える広い市長室に、ハリのある声が響いた。
「美海(みうみ)市一般職の任期付職員の採用に関する条例に基づき、任期付職員に任ずる。任期は5年とする。総務部未来ビジョン推進室特命担当ディレクターを命ずる。美海市長、与那覇(よなは) 早紀(さき)。」

一気に読み上げた市長が、真っ直ぐに結維を見つめる。
「よろしくお願いしますね。」
そう言うと、いつもの柔らかな表情に戻り、A4サイズの辞令をくるりとこちらへ向けた。
……なんだ?今の肩書きは。
聞いていた話と、少し違うかも。
戸惑いながらも笑顔で一歩前に出る。
美海市のイメージカラーだというコバルトブルーのスーツに身を包んだ与那覇早紀市長から、結維は両手で辞令を受け取った。
「一同、礼。」
人事課の若い職員の声で、壁側に一列に並ぶかりゆし(・・・・)のシャツを着た幹部職員らしき人たちが、一斉に頭を下げる。
「以上で辞令交付式を終了します。」
少し間を置いて、年配の職員に「では、こちらへ」と促された。
入口近くに置いていたバッグを慌てて手に取り、市長室を出た。
「知念ディレクター。市長から聞いています。環境も変わったばかりでしょうから、まずはここでの生活に慣れてくださいね。よろしくお願いします。あ、総務課長の仲里と言います。」
仲里課長の歩幅は大きく、スピードも速い。
4階の奥にある市長室から、企画財政部、総務部などが並んでいる。
慣れない少しヒールのある靴で、小走りに後を追う。
「あ、こちらこそよろしくお願いします。」
気になっていたので、続けて聞いた。
「あの、仲里課長。この辞令ですけど、私、広報とかまちづくりとか、市長と以前の仕事でご縁のあったことをやると聞いていたのですが……。」
「まぁ、広い意味では、そんな感じじゃないですかね。」
仲里課長は、にこやかな表情のまま歩みを緩めない。
総務部の前を通り過ぎたけど、辞令では総務部って言ってたよね。ここじゃないのかな?
古びた石張りの階段を下りて、3階へ。
静まり返った廊下の壁際に、折り畳み机や防災備蓄らしい段ボール箱が積まれている。
災害対策室、情報政策室などと書かれた案内板が並ぶ。
広めの会議室もあるようだ。
仲里課長は、そのさらに奥へと歩いていく。
廊下の奥には、少し雰囲気の違うスモークがかったガラス張りの会議室のような部屋が見える。
突き当たりまで来たところで、仲里課長が立ち止まった。
「ここです。どうぞ。」
先月まで働いていた都内のオフィスを、ふと思い出させる設えだった。
「知念ディレクター、職員証はお持ちですか。」
今朝、早めに着くように言われて、その時渡された写真付の職員証をバッグから取り出した。
「それを、ここに、ピッと音がするまで当ててください。」
言われた通りにドアの横にあるカードリーダーに当てると、オートロックが外れる電子音がした。
「私の職員証ではここには入れないので。……まぁ、入れば分かりますよ。」と笑顔で送り出された。
「ようこそ美海市へ。結維さん、よく来てくれたわね。」
スクリーンと、10人以上は座れそうな大きな白いテーブル。
そこには、つい先ほど見たばかりのコバルトブルーのスーツ姿があった。
……あれ、3階に下りてきたのに市長がいる?
ふと窓の外に目を向けると、市長室と同じように海が広がっている。
あの真下に、この部屋はあるらしい。
「驚いた?遠回りさせたわね。そこがね。上とつながってて、行き来できるのよ。」
早紀はいたずらっぽく笑いながら、部屋の奥にある白いらせん階段を指差した。

驚きよりも、ここまで小走りで歩いてきた道のりを思い返した。
「ここがあなたの職場よ。まぁ、座って。」
「上原さん、いいかしら?」とパーティションで仕切られたスペースに声をかける。
「はい、市長。」とノートPCを抱えた、結維よりも少し年上に見える男性が姿を現した。
「初めまして、上原といいます。知念ディレクターをサポートさせていただきます。」
「こちらこそ。知念です。よろしくお願いします。」
その場で立ち上がって、一礼した。
「上原さんはね、この市役所で一番話が早くて、そして、できませんって言わない人。よね。」
「いえいえ、この部屋を改装する時、洋館にあるような大階段にしたいって仰ってましたが、今のらせん階段で落ち着いていただきました。」
苦笑いを浮かべながら、テキパキとPCをプロジェクターにつないだ。
「そう。ちゃんと現実的な解決策を返してくれる人。困ったときはなんでも上原さんに相談するといいわ。」
結維は頷きながら、改めてらせん階段へ目を向けた。
シンプルで洗練されたデザインは、上原なりの気遣いの現れだろうか。
「では、市長、映します。」
上原はそう言って、スクリーンへパワーポイントを投影した。
最初のスライドには、「美海市の概要と展望」と書かれていた。
続いて、1分半ほどのショートムービーが流れ始めた。
青く透き通る海と白い砂浜。
港を出入りする漁船。
観光客で賑わう商店街。
夕暮れに灯りがともるカフェバー。
軽快な音楽に合わせて、合併前の旧美崎(みさき)市と旧海良村(かいらそん)、それぞれの特徴的な風景がテンポよく切り替わっていく。
“美しい海と未来をつなぐまち——美海市”

「結維さんが担当してくれたこの動画。今も使わせてもらってるの。」
早紀が、少し懐かしそうに笑った。
2年前。
早紀が市長に就任した直後に、結維が勤めていた東京の大手広告代理店へ、合併後のシティプロモーション動画の制作依頼が舞い込んだ。
協力会社経由で持ち込まれた案件で、2週間で作ってもらえないかと懇願された。
結維は社内の各部署を走り回って、撮影班や編集スタッフとの調整に追われながら、なんとか納品までこぎつけた。
現地撮影は、天候だけを頼りにした日帰りの強行軍だった。
だが、懐かしむ間もなく、スクリーンは次のスライドへ切り替わる。
「人口 36,214人、年少人口率 13.8%、空き店舗率 18.2%。」

先ほどまでの軽快な音楽とは対照的に、上原の声が静かに響いた。
「観光客数は増えているのですが、一方で、小中学校に通う子どもの数は減り続けています。」
スライドには、合併後の市内小中学校の児童生徒数推移グラフが映し出される。
「学校の統廃合も避けられない状況ですし、商店街も、代替わりできずに閉める店が増えています。」
さらに、市内中小企業数、農林水産業の就労者数、出生数、税収など、さまざまな指標の推移が映し出される。
上水道や下水道の使用量も減少傾向にあり、道路をはじめとするインフラ維持費は、逆に増え続ける見込みが示された。
上原は、淡々と説明を続けた。
「多くの指標が、黄色信号から、徐々に赤信号へと移り始めています。」
確かにこれは広報とかまちづくりだけで簡単に解決できる話ではなさそうだ。
地方自治体のことに詳しくない結維でも、そう感じる。
昨日、東京で最後の仕事を終え、そのまま飛行機で沖縄へ来た疲れもあったのだろう。
不覚にも、少しだけ眠気が込み上げてきた。
「私はね、結維さんが考えてくれた、ゆるキャラ。とっても気に入ってるの。」
早紀の声で、結維はハッと我に返った。
「これ。みうーし。」
早紀は、スマートフォンに付けられた小さな青いストラップを、軽く揺らしてみせた。

2年前のシティプロモーション動画の納品後、美海市から追加で相談されたのが、市のPRキャラクター制作だった。
その打ち合わせの席で、結維がふと口にした。
「『みうみし』って、『うみうし』みたいですね。」
その瞬間、その場の空気が少し変わった。
新市名を決める住民アンケートでは、
本命視されていた「ちゅらうみし」を抑えて、「みうみし」が一位になった。
人口3万2千人の旧美崎市側に、「み」を残したいという空気が一定数いて、旧海良村の4千人を大きく上回っていたことも影響したようだ。
だが、その結果に、複雑な思いを抱えていた職員も少なくなかったらしい。
そのせいだろうか、結維の発言に、その場にいた職員たちが妙に盛り上がった。
「うみうし、いるんですよ、たくさん。」
「行けるかもしれない!」
冗談半分の空気のまま、結維は東京へ戻り、社内デザイナーへ話を振った。
すると翌日には、
「こんなの描いてみました」
と、ウミウシをモチーフにしたラフデザインが送られてきた。
丸っこくて、妙に愛嬌のあるキャラクターだった。
そこには「みうーし」と書かれていた。

「上原さんが説明してくれたように、美海市には課題が山積していて。」
早紀が話を続けた。
「でも、国も地方自治体も、あぁ、民間企業もね、人口減少なんて誰も経験がないから、何が正解かなんて分からない。」
そこで一度、早紀は楽しそうに笑った。
「だからこそ、失敗を恐れずに挑戦しないと。挑戦は楽しく、ね。」
何か企んでいるような笑みを浮かべている。いや、純粋に楽しんでいるだけなのかもしれない。
「もっと話したいけど、4月1日って色々あってね。まずは市内をあちこち見てもらって、一緒に考えていけたらと思ってる。よろしくね。」
そう言って、早紀は白いらせん階段を上って行った。
この日は、自分用に貸与されたPCで、システムごとに違う何種類ものログインIDやパスワードと格闘しながら、初期設定を行った。
職員用のグループウェアをスマホと連携させ終えた頃、終業時間を告げるメロディが聞こえてきた。
チャイム?いや、違うな。
どうやら、防災無線のスピーカーから流れてくる音らしい。
「終業時間ですね。最近は、職員のフレックスタイムが普及してきたので、庁内では一斉にチャイムを鳴らすのをやめたんです。」
上原が、ノートPCから顔を上げて言った。
「知念ディレクター、今日は初日でお疲れでしょうから、もう上がってください。歓迎会は、また落ち着いてからでお願いしますので。」
夕日に照らされた庁舎を後にし、結維は昨晩から住み始めた新しい家へ向かった。
転職する人は、残った有給休暇を使って準備期間を取る人が多いのだろう。
だが結維は、結局、最後の日まで東京で働いてしまった。
身一つで沖縄へ来られたのは、市が推進しているという二拠点居住者用の住宅を、モニターとして利用できることになっていたからだ。
造り付けの収納に、必要な家電製品も一通り揃っている。
とはいえ、今日は疲れていて料理もする気が起きないし、コンビニで買うのも味気ない。
家まではこのまま歩けば20分ほどの距離だが、まだ明るいし、肌にあたる風も心地よい。
行く当てはないけれど、少し歩いてみるのも悪くない。
「そうだ。」
2年前、動画収録で来た時のことを思い出す。
あの時はロケバスだったけど、確かこの先を海岸の方へ歩いていくと、あの店があったはずだ。
表通りから一本裏へ入り、10分ほど歩くと、海の匂いがしてきた。
「そうそう、ここ、ここ。」
ちょうど夕日が沈みかけて空が朱色から茜色へゆっくり染まり始めている。
いわゆる、マジックアワーだった。
赤瓦の屋根に白い塗壁の平屋建て。
小さなカフェバーが見えてきた。
店先は、モンステラやアダンが植えられ、間接照明に照らされている。
入口脇には、小さく「Serendipity(セレンディピティ)」と書かれたアイアンプレートが掛けられていた。

「いらっしゃいませ。」
バーカウンター越しに、グラスを磨いていたバーテンダー姿の男性が声をかけてくれた。
「お一人ですか。お好きな席にどうぞ。」
夕飯には早い時間だからか、店内にはカウンター席に若い男性客が1人いるだけのようだ。
窓際のテーブル席なら、今は夕焼けの海が見える。
けれど、じきに暗くなるだろう。
結維は、カウンターの端の席に腰を下ろした。
「どうぞ。」
メニューと一緒に、小さな氷がたくさん入った水のグラスが置かれた。
そして、お通しなのだろうか。
海ぶどうの乗った小皿も、そっとカウンターへ添えられる。

一口、水を飲む。
そういえば、今日はいつから水分を摂っていなかったのだろう。
あっという間の1日だった。
口の中が、すっと爽やかになる。
シークワーサーで香り付けされているようだ。
海ぶどうにも手を伸ばした。
口に含むと、ぷちぷちと弾ける感触が広がる。
「美味しい。」
思わず声に出ていた。
「よかった。これ、宮古で取れた天然ものでね。」
落ち着いた低い声が、静かな店内に心地よく響いた。
「以前、東京で食べたものとは、まるで違います。」
「そう。……お客さん、東京から?」
「はい、昨日の夜に着いたばかりで。あ、ソーキそば1つお願いします。」
メニューを指差しながら言った。
「マスター、おかわりください。」
カウンターの離れた席にいた若い男性客がグラスを軽く掲げた。
「マスター」は、結維の注文に頷いてから、男性の方へ向かった。
気がつくと、店内には、静かなジャズが流れている。
窓の外では、夕焼けがゆっくりと群青色へ変わり始めていた。
しばらくして、湯気の立つソーキそばがカウンター越しに置かれた。
透き通った出汁の香りがふわりと広がる。
ようやく、肩の力が抜けてきた気がする。
今日一日、ずっと気を張っていたのかもしれない。
「はい、どうぞ。」
そう言ってマスターは、もう一つ、小さなじゅーしーのお椀を添えた。
「あれ、これ頼んでないですよ。」
「あなた、2年前に動画の撮影に来た人でしょ。」
「あ、そうです。私のこと覚えてるんですか。」
「さっきソーキそばを注文した姿で思い出してね。あの時、撮影終わった後に慌ててソーキそばを食べていったでしょう。」
「はい、かなりバタバタでした。」
「あの動画、だいぶ経ってからバズったみたいでね。」
マスターは小さく笑った。
「動画を見たってお客さんが、夕焼けの写真を撮りに来てくれるようになって。そのお礼を言いたくて。」
「ありがとうございます。そうなんです。1年くらい経った頃に、夕焼け専門のインフルエンサーさんが取り上げてくれて。この手のP R動画ではかなりのバズり具合でした。」
結維は、身を乗り出し、両手を広げながら言った。
「今日も何かの撮影?」
「いえ、違うんです。私、今日からこの町で働くことになりまして……。」
「今日から?この町で?」
マスターが言いかけたところで、離れた席にいた若い男性客がグラスを持って近づいてきた。
「なんか楽しそうな話が聞こえたんで来ちゃいました。YouTuberさんとかですか?」
結維がきょとんとしていると、若い男性が続けた。
「初めまして。まちづくりのお手伝いとか、地域でいろいろ面白いことやらせてもらってます。榊原(さかきばら)奏人(かなと)です。」
そう言って、榊原は名刺を差し出した。
《株式会社南風総研》
まちづくりプランナー CEO 榊原奏人と大きな文字の横に、よく似た似顔絵が描かれている。
バッグの中を慌てて探りながら、結維は頭を下げた。
「知念と言います。今日から美海市役所で働いてます。」
「市役所でしたか。なんとなく同業の雰囲気がしたもんですから、つい。」
結維は、探り当てた名刺入れから今朝もらったばかりの名刺を取り出して、榊原とマスターに手渡した。
「へぇ。未来ビジョン……特命……ディレクター。なんかかっこいいですね。美海にこんな部署ありましたっけ。ねぇ、マスター。」
「未来ビジョンねぇ……。」

マスターは名刺を眺めながら、小さく呟いた。
「知念さんって、島の人?」
「あ、はい。生まれは沖縄で、小学校に入る前に福岡に引っ越したので、育ちは九州なんです。昨日まで東京の会社で働いてました。」
「へぇ。じゃあ、完全なUターンってわけでもないんですね。」
榊原は感心したように頷いた。
「……って、昨日まで東京? それ、引っ越しとかいつしたんですか?今ここにいて大丈夫なんですか?」
「市の二拠点居住者向け住宅のモデル事業で、モニターって形で住宅をお借りできまして。おかげで準備が要らなかったんです。」
「あ、それ、美海の市民課がやってる関係人口創出モデル事業ですよね。去年、市長に言われて困った市民課から、うちに相談が来たやつです。」
「そうだったんですね。」
「はい。結局、プランニングだけじゃなくて、改装まで請け負いました。空き家リノベの中では僕の自信作です。」
「下見に来れなかったんですけど、聞いていたとおり家具も家電も揃っていて、セカンドハウスみたいで驚きました。朝起きたら、窓から港が見えて。」
「それだと、1号棟ですね。ちょっとクリエイター寄りに振ったやつです。そこだけまだ入居者が決まってないって言ってたんだけど、ここで第1号入居者様に会えるとは。」
「市長が奏人くんには内緒で進めてたんだろうね。」
マスターがグラスを磨きながら、静かに笑った。
「……ありえますね。」
結維もつられて笑った。
「1号棟ってことは、他にもあるんですか?」
「あとはワーケーション向けと、家族滞在向けがあります。どれも平屋の戸建てで、3軒あります。」
「それ、気になりますね。」
「今度ご案内しますよ。ぜひ、美海のためにも、僕の作品の住み心地、発信してください。」
そのとき、テーブルの上のスマートフォンが小さく震えた。
《美海市グループウェア 予定更新通知1件》
結維は画面を開いた。
――4月2日 9:00
市内視察(与那覇・上原・知念)
備考:公用車使用、防災服着用

「……防災服?」
結維は思わず声に出して言った。
「防災服がどうしました?」
榊原が不思議そうに首を傾げた。
「はい。明日の朝、早速、市長と市内の視察だそうです。そこに、防災服着用とあって。」
「あぁ。与那覇市長、本気で現場まわりするって感じですね。面白いことが始まりそうですね。」
「本気で……。」
「明日のためにも今日はもう帰って休んだ方がいいね。これ、持っていって。歓迎の気持ち。」
マスターは、包み紙に入ったポークたまごおにぎりと、冷えたさんぴん茶を結維に手渡した。
店を出ると、潮の匂いを含んだ夜風が、頬を静かに撫でた。
港の方から、かすかに波の音が聞こえる。
結維は、マスターから渡された小さな紙袋を抱え直した。
見上げた夜空には、昨日までとは違った星が、ぽつりぽつりと浮かんでいた。
<第2話につづく>