地域包括ケアから地域共生社会へ、スマートシティの青写真(2)
国のDXと地域が整備するICT
守屋 潔
プロフィール
響働ICT合同会社代表。名寄市役所と名寄市立総合病院(北海道)の職員として地域包括ケアICTネットワーク構築運用に携わる。現在は全国の地域連携ICTネットワークの立ち上げ支援を行っている。総務省「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」DXアドバイザー、全国自治体病院DXアドバイザー。
要旨
スマートシティといえば住民に対する行政サービスのデジタル投資が話題になるが、最も重要なことは地域に住む住民の安心安全である。とりわけ健康福祉分野においては支援を必要とする住民をサポートする支援者のネットワークを作ることがより安価でかつ即効性がある。今回はその具体的な例として重層的支援体制整備事業、こども支援、防災でのICT活用事例について紹介する。
重層的支援で必要なのは組織横断の情報共有
現在、多くの自治体では人口減少、高齢化、独居高齢者増加、8050問題、ヤングケアラー、ダブルケア、孤立、災害弱者対策など、従来の縦割り行政では対応できない複合課題が急増している。こうした中、国は「重層的支援体制整備事業」を推進している。これは、高齢、障害、子ども、生活困窮といった制度ごとの支援ではなく、住民を“丸ごと”支える体制へ転換する取り組みである。しかし、ここで大きな壁になるのが「情報共有」である。
行政の現場で相談を受けるケースは複数の困難事情を抱えていることが多い。
・認知症高齢者と引きこもりの子が同居する8050問題
・子育てと介護が重なるダブルケア
・発達障害児を抱える生活困窮世帯
・災害時避難が難しい独居高齢者
ここで必要なのは、「制度別支援」ではなく「生活全体を支える支援」であり、行政、社会福祉協議会、地域包括支援センター、ケアマネジャー、医療機関、学校、子ども支援機関、民生委員、防災部門など、多機関が連携できる地域横断型ICTネットワークが有用である。
子ども支援と高齢者支援はつながっている
重層的支援を考えるとき、見落としてはならないのが「子ども支援」である。例えばヤングケアラー問題では、親の介護、障害、貧困、不登校、精神疾患、などが複雑に絡み合っている。高齢者支援だけ見ても解決しない。逆に子ども支援だけ見ても解決しない。つまり、世帯全体を見る必要がある。しかし現状では、学校、介護、福祉と情報が分断されている。
結果として、「誰も全体像を把握できない」状態が起きる。地域連携ICTは、この分断を越える役割がある。もちろん個人情報保護は重要である。しかし、「守るために共有しない」のではなく、「支えるために必要最小限を適切に共有する」という考え方が求められる。
防災と見守りがICT基盤に統合される時代
もう一つ重要なのが、防災との統合である。近年の災害では、高齢者や障害者など“避難弱者”の問題が深刻化している。特に独居高齢者では、
-避難情報が届かない
-避難できない
-支援者が分からない
-安否確認に時間がかかる
などの問題がある。しかし災害時に使うDXを導入したとしていざ有事の際にすぐに使えるかは不安が残る。平時において地域の支援者同士がつながって情報共有の仕組みができていること、ICTを用いた見守りの仕組みができていると、災害時においてそのネットワークが生きる。
例えば、
①普段から見守り対象を把握
②支援関係者を共有
③緊急時連絡先や個別避難計画書を共有
④災害時に即時対応
という流れを可能にする。
つまり、「平時」と「災害時」を別にしない。
地域を日常的につなぐICTが、そのまま災害対応力になるのである。
スマートシティの本質は「住民を支える基盤」
近年、「スマートシティ」という言葉が広がっている。しかし、日本ではしばしば、
AI、IoT、自動運転、監視カメラ、データ分析など、“技術”ばかりが注目される。本来のスマートシティの本質はそこではない。
本当に重要なのは、「地域住民をどう支えるか」である。特に人口減少社会では、人手不足が避けられない。医療、介護、福祉、子育て、防災の全てで支援人材が不足していく。
だからこそ必要なのが、「限られた人材をICTでつなぎ、地域全体で支える仕組み」なのである。つまり、スマートシティとは単なるデジタル化ではない。“地域の助け合いを支える情報インフラ”なのである。

【図1】
ICTのゴールは「地域の安心」
ICTは目的ではない。本当の目的は、「地域の安心」を作ることである。困ったとき、
* 誰かにつながる
* 必要な支援につながる
* 行政だけに抱え込まない
* 地域全体で支える
そうした状態をどう作るか。そのための基盤が地域ICTである。そしてこれからの自治体DX、スマートシティ、重層的支援体制整備事業は、別々の話ではない。すべては、「地域共生社会をどう支えるか」という一つのテーマにつながっている。
次号では具体的なプロジェクトの作り方の事例を詳述したい。