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2020.6.21

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点⑤ 〜まちづくり・都市計画の目線の大切さ〜

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点⑤
〜まちづくり・都市計画の目線の大切さ〜

首都大学東京助教 讃岐 亮

 

公共施設のあり方を考えるということは、結局は将来のまちのあり方、まちづくりを考えることに他ならない。このことを再認識した多摩市の2015年度の『公共施設の見直しについてのワークショップ』の事例を、今回は紹介したい。

 

東京都多摩市は、市域の大部分が多摩ニュータウンに属し、郊外ベッドタウンとしての性格を有している自治体である。多くの地方自治体と同じく、公共施設を大量に保有し、少子高齢化に悩む自治体でもある。

そうした背景を有する多摩市は、2013年11月に「多摩市公共施設の見直し方針と行動プログラム」を公表した(※1)。この行動プログラムは、多摩市が保有する公共施設を抜本的に縮減すること、施設の機能毎に縮減案を検討したこと、行動スケジュールを記載したこと、という点で画期的なものであった。しかしながら、一部では市民の反発を招いてしまった面もあり、こうした公共施設再編についての住民説明の難しさが露呈した。

これについて市民理解を深める機会を作ろうと、市で企画した公共施設の見直しに関する市民ワークショップが、2015年のここで紹介する事例である。計4回(初回はレクチャーで、実質3回)の構成で、高齢者のための施設、子どものための施設、社会教育施設(図書館含む)を、第2回〜4回にかけて議論した(※2)。

 

その中で、図書館を含む社会教育施設を対象としたワークショップ第四回目で特に議論が紛糾した。行動プログラムでは、市内の図書館7館を3館に集約するとしていたが、それを不満に思う参加者が多かったためである。ワークの中で、「図書館は地域の中心になっている」、「公民館のような地域拠点の役割を担っている」、「全体的な面積縮小はやむを得ないとしても、集約よりも分散配置を維持して欲しい」といった意見が出された(図1)。

そもそも多摩ニュータウンの都市計画は、コミュニティセンターや商店街を地域の拠点とする近隣住区型の地域構成を形成するものである(これを近隣センター商店街と呼んでいる)。また、多摩市の図書館の一部は、このコミュニティセンターに統合される形で複合館として再整備された経緯がある。「統合された当時は反対意見が根強くあったものの、今ではむしろ図書館が地域の核として認知されている」という市民の声も、ワークショップを通じて情報共有された。つまり、かつて公民館が担っていた地区センターの役割を現在は図書館が引き継いでおり、図書館を閉鎖するという市の計画は、それを中心として街区形成されているニュータウンの近隣住区の都市計画そのものを転換することになる、という指摘と理解できる。図書館を中心とする地域拠点の周辺には、小さな商店やスーパーも展開しており、図書館という集客機能を失うと、商業的な拠点機能もいずれ失われることが想像される、というわけである。

これはまさに、地域視点、都市計画視点、まちづくり視点を踏まえた議論である。公共施設マネジメントを考える際の都市計画目線の必要性を市民意見として共有したこの事例は、多摩市の公共施設マネジメントの推進過程で象徴的な出来事であると思う。

 

 

実際、こうした議論や周辺の様々な意見交換を経て、多摩市では2016年12月に行動プログラムの見直しを発表、図書館の統廃合は「再検討」になった(※3)。総量縮減という観点では後退となったものの、こうしたまちづくり視点に基づいて議論を再確認することは、将来を見据えた公共施設マネジメントには必要であろう。前進ばかりが公共施設再編の実践ではないことを、このワークショップを通じて認識させられたところであり、都市計画目線、鳥の俯瞰目線の大切さを実感した事例であった。

参考

※1:多摩市「多摩市公共施設の見直し方針と行動プログラム」

 

※2:多摩市「公共施設の見直しについてのワークショップ」