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2020.4.16

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点④ 〜顔の見える関係づくり〜

FMに纏わる市民ワークショップの実態と求められる視点④
〜顔の見える関係づくり〜

首都大学東京助教 讃岐 亮

 

本連載の第4回は、市民対話、ワークショップという場が様々な参加者にとっての「顔の見える場」になること、あるいは、そうすべきであるという筆者の視点を解説する。

市民にとって、市役所や支所を訪れるときに接する職員と自身との関係は「1対1」の関係である。しかし職員にとってはどうか。一つ一つの仕事は「1対1」であっても、それらが積み重なれば、「1対不特定多数」になると感じることが多いのではないか。特に窓口対応を日々重ねていくとか、住民説明会を企画・運営するといった状況について、思い当たる節があると思う。
何も、それを批判したい訳ではない。むしろ、そうなるのは当然であると思う。自治体運営を「経営」として考えれば、個別対応の積み重ねだけでは合理的、長期的な経営判断はできないのだから。しかし一方で、市民協働が求められる現場で、市民の顔が見えていること、あるいはその逆として市民の側から職員の顔が見えていることは、公共施設再編、ひいてはまちの未来を考えるときに強力な武器になる。

実際、筆者が最近関わった2018年度の『武蔵野市公共施設のあり方ワークショップ』、あるいは2018年度開催の多摩市における『旧北貝取小学校活用検討市民ワークショップ』においては、以下のようなアンケートの回答が多数あった。たとえば、「普段顔の見えない職員の皆さんと同じ目線でディスカッションできた」とか、「市民と職員もつながることが大切だと気づいた」、「職員スタッフが頑張っている姿が良かった」、「公共施設の再編について真剣に考える必要性を学ぶ機会になった」といったものである。
あるいは、3年遡った2015年度に多摩市で開催された『公共施設の見直しについてのワークショップ』では、市の担当者が「参加者から厳しい声もいただくが、しかしそうした声を寄せる方々から『貴方の言うことも一理ある』とも言われる。信念は曲げずにしっかりと説明を継続していくことが大切だと思っている。」という趣旨のコメントをされていたことを思い出す。
こうした声は、たとえ各論反対になりがちなテーマであっても、きちんと顔をつきあわせて議論することが重要であることを示している。すなわち、普段市民が接しない市としての経営方針、まちづくりの方針、具体的な諸々の計画を理解し、市民と市との信頼関係をつくる大事な基礎になるということを示唆している。単純な住民説明会ではなく、ともに考え、アイディアを出し合い、提案するというプロセスを経ることで、前回のコラムで述べた「ジブンゴト」の意識だけでなく、自治体職員との信頼関係、顔の見える関係づくりにつながるのである。

長崎市の話題に転じよう。長崎市では現在、市域を計17地区(島嶼部を別枠としているため、実質的には20程度となる)に分けて年間5地区程度、市民対話のワークショップを企画・実行している(※3)。私はその市民対話のアドバイザー、当日の全体ファシリテーターを務めている。

その市民対話で特徴と言えるのは、地域支所の職員、種類ごとの施設所管課の職員も応援スタッフとして参加することで、ワークショップ参加が初めての市民であっても、「どこかで接したことのある職員がいる」と思い出す市民ができるだけ多くなるような工夫を凝らしていることである。これは、始まる前から「顔が見えている」状態を少しでも多くしておきたい、という思いの表れでもあろう。事務局スタッフ、応援スタッフで総勢20名程度となり、他の自治体で開催されるワークショップよりも層の厚い人員配置であると言えるだろう。因みに、この市民対話を企画進行する長崎市資産経営室のスタッフは9名で、自前でワークショップ企画を行っている、つまり自分事としている点も特徴である。

こうした自前で行うワークショップや市民対話は、ともすると、業務効率化の観点からそれこそ公民連携したら良いのではないか、あるいはプロフェッショナルに任せた方が良いのではないか、という意見も生じよう。あるいは、市としてのビジョンをきちんと示し、その上で個別に経営判断を重ねていくことの方がよほど重要、という意見もあるだろう。中途半端なワークショップは、むしろ逆効果、という意見すらある。

無論、それはそれで一理ある。事実、私がアドバイザーを務めているのも、そうした観点からの役割分担という意味もあるし、私自身も、よほどの覚悟と事情がない限り、安易にワークショップをやらない方が良い、とすら言うこともある。しかしながら、実直に市民の意見に耳を傾けることで得られる信頼関係、それを基にした本来の意味での地域経営に結びつけるには、理想論ではあるが、そうした着実な歩み方もまた、否定できないと考える。
この話題になると議論は尽きないが、いずれにしても、顔の見える関係は、僅かずつでも、行政運営のための一つ一つの信頼関係につながるものであり、どんな事情であれワークショップを開催するのであれば、そうした関係構築を狙うのも一考の価値あり、と思う。

参考
※1:武蔵野市「公共施設のあり方ワークショップかわら版」

※2:多摩市「旧北貝取小学校活用検討市民ワークショップ実施報告」

※3:長崎市「公共施設の将来のあり方を考える市民対話」